2019年9月1日日曜日

顧客の要望を聞き入れてはいけない

無駄にキャッチーなタイトルをつけてしまいましたが、先日Yahoo! JAPAN Osakaで開催されたMix Leap Study #49 - ヤフーにおけるものづくり ~ユーザーファーストの極意~で、まさに常日頃考えていたことが発表されていたのでその記録です。

「ユーザーファーストなのに要望を聞き入れるなってどういうこと?」
ごもっとも。以下をお読みください。

ちなみにマーケティングの分野では常識レベルの話なので、「こんなことでドヤ顔するんじゃねーよ」というツッコミは勘弁してください。

有名な絵

まずはエンジニア界隈で有名なあの絵をごらんください。

ポイントは左上↖右下↘
「こういうのを作って」と言われても、実際は顧客自身が状況を整理できておらず、よくよく考えたらほしいものは違ったということはよくあります。

有名な言葉

続いてはすごい人の言葉を2つ続けてどうぞ。
If I had asked people what they wanted, they would have said faster horses.
人々は、欲しいものは何かと聞かれれば、速い馬がほしいと言うだろう。
Henry Ford
自動車がまだ誕生していない馬車の時代、馬車に乗っている人に「何が欲しい?」と尋ねたら「もっと速い馬が欲しい」と答えたでしょう。
それに対してフォードは馬車とは全く異なる乗り物を開発し、自動車王と呼ばれるようにまでなりました。
A lot of times, people don't know what they want until you show it to them.
ほとんどの場合、人々は実際に見せてもらうまで、何が欲しいのか自分自身でもわかっていない。
Steve Jobs
なので、ジョブズは「何が欲しい?」ではなく「お前たちが欲しいのはこれだ!」と言わんばかりの製品を開発してきました。
もちろん全てが成功したわけではありませんが、他の全ての失敗を帳消しにして余りある世界的な超大ヒット製品がiPhoneであることはみなさんもご存知の通り。

これらに共通するのは「顧客は自分の見える範囲内のことしかわからない」ということです。
顧客の視野を超えて「そうそう、これがほしかったんだよ!」というものを提供するのがクリエイターの仕事です。

5 WHYS

「5つの【何故】」とは、「理由を5回考えろ」みたいな意味です。
実際は5という数字に何か意味があるわけではなく、3回で済むこともあれば10回必要なこともあります。
より正確には「根本の原因がわかるまで考え続けろ」です。

これだけだとよくわからないので実例を挙げましょう。

アメリカ独立記念館の外壁の損傷が激しいから毎年ペンキを塗ってくれ!」

こう言われたらあなたはどうしますか?
「はい、わかりました」と言って塗装業者を手配すればとりあえず顧客の要望は叶えられます。

しかし、ある人はこう考えました。
Q1. なぜ外壁の損傷が激しいのか?
A1. 外壁を石鹸で掃除しているから
では、石鹸やブラシの素材をもっと壁に優しいものに変えればいいのでしょうか?
次にその人はこう考えました。
Q2. なぜ外壁を掃除する必要があるのか?
A2. 鳩のフンがたくさんあって汚いから
では、鳩を近づけないように、鳩が苦手な音やにおいを出せばいいのでしょうか?
次にその人はこう考えました。
Q3. なぜ鳩のフンが多いのか?
A3. 鳩の餌である蜘蛛がたくさんいるから
では、蜘蛛を近づけないように(以下略
次にその人はこう考えました。
Q4. なぜ蜘蛛がたくさんいるのか?
A4. 蜘蛛の餌であるがたくさんいるから
では、蛾を近づけないように(以下略
次のその人はこう考えました。
Q5. なぜ蛾がたくさんいるのか?
A5. 周辺施設より街路灯を早くつけているから
そこで、周辺施設より遅い時間に街路灯をつけることにしました。
たったそれだけのことで、集まる蛾が減り、蜘蛛も減り、鳩も減り、鳩のフンも減り、掃除の回数も減り、結果としてペンキを塗る回数も劇的に減りました。

余談ですが、蛾は電球から出る微弱な紫外線に集まってくるようなので、今であれば街路灯をLED(紫外線を出さない!)に変えれば解決するかもしれませんね。

まとめ

顧客の要望通りに速い馬を作るための品種改良をしたり、塗装業者を毎年手配すれば100点の評価を得られるかもしれません。

しかし、顧客が抱えている課題を正しく理解することで顧客が本当にほしいものを提供できれば120点の評価を得られるのです。
それこそがクリエイターの価値であり、ライバルとの差別化であり、ブランド価値です。

最後に、この言葉を紹介して終わります。
An entertainer wants to give you exactly what you want. An entertainer gives you those good old songs that you want to hear.
An artist wants to give you what you don't know you want. Something you might know you want the next time, but you never knew you wanted before.
芸人は、あなたが今まさに欲しいものを与えてくれます。あなたが古き良き歌を聞きたければ歌ってくれます。
芸術家は、あなた自身が欲しいかどうかすらわかっていないものを与えてくれます。与えられるまでは欲しかったかどうかすらわからなかったけれど、次からは欲しくなるかもしれない何かです。
David Cronenberg

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